INTERVIEW関係者の想い

2017年1月

カイコ・シルク研究の知の拠点化が今後のプロジェクトの発展の鍵に

基礎研究対象として、多くの蓄積と有用性があるカイコ

 カイコはショウジョウバエなどと並んで、古くから遺伝学の研究対象として研究されてきたことから、早くにすべてのゲノム解析が出来た昆虫のひとつです。
そもそも人の手があって初めて生きていける昆虫のため“最古の家畜”とも呼ばれ、ヒトとカイコとの関係は古く、かつ深いものです。
さらに飛ばないという特性が研究対象として大変扱いやすいこともあり、世界的に見ても、シルクロードにまたがるヨーロッパ、アジア地域を中心にカイコの研究は古くから発展していますね。
例えば中国やフランスなど、養蚕がそもそも産業として発展している国は、その技術開発から昆虫学という分野まで、かなり発展しているという特徴が見受けられます。
ということは、もちろん日本でもカイコを伝統的に重宝してきた歴史があることから、基礎研究の対象としても早期から取り扱われてきました。
現在シルクの最大産地のひとつでもあるブラジルのブラタクも、日本系移民が持ち込んだ研究や技術がもとになっていると言われているほどです。

 さて、そんなカイコを用いて、私は現在熊本大学で「薬が効くメカニズム」について研究しています。細胞にはレセプター(受容体)と呼ばれるタンパク質があり、ここが特定の物質を見分け、細胞の外の情報を読み解いています。
つまり薬はこのレセプターに働きかけているわけで、医薬品、機能性食品、サプリ、化粧品、農薬などの開発にレセプターの研究は大いに役立ちます。
なかでも私の研究の目的は、農薬が特定の害虫のみにピンポイントで働きかけるようにするところにあります。
そうすれば大規模な農薬散布によって、周囲の生態系までを壊すことがないようにすることができますから。
そこで先にも述べましたが扱い使いやすさという点と、さらに害虫は葉を食べてしまう芋虫の仲間が多いということで、同様の系統であるカイコを実験対象に選び、次世代型の農薬開発に役立てる研究を重ねています。

 またカイコの摂食行動の研究から、ヒトと同じ細胞シグナルによって行動が制御されていることもわかりました。
今後は、ヒトの健康や病気を改善するための研究にカイコを役立てていきたいと思っています。 ヒトの疾患研究は、ラットやマウスを使うことが主流ですが、倫理的な問題を考えると、カイコを代替活用していくことができれば、大きなブレイクスルーになるはずです。

安定的生産は研究にとっても、大きなメリット

 「シルク・オン・ヴァレー」プロジェクトの可能性については、「繊維としての活用」が第一にあげられますが、私のような研究者視点で捉えると、まず高品質で安定したカイコの供給が行われることで「有用で高付加価値な物質の生産」にも多いに期待しています。
例えば、私が扱う受容体の遺伝子をカイコのなかに組み込むことで、受容体をカイコにつくらせることができます。
これによって、医薬品のスクリーニングや機能性食品成分の評価といった研究を行うことができます。
またヒトの疾患に有用な物質を、カイコの体のなかでつくらせることができれば、将来的には抗ガン剤の生産も可能になると考えられます。
そういった意味でも無菌状態で安定的にカイコを供給できることは大きなメリットになると感じています。

 こうして新たなブランドシルクを世界に発信していきながら、今後は熊本が、そして山鹿が、シルク、カイコ研究の知の拠点として、発展していってくれることを望んでいます。
そのためにも、我々大学研究者は、研究のネットワークはあるものの、専門性が多岐にわたりすぎていて、うまく連携できていないところがあったので、研究者間の連携を密にしていくことが重要です。
また、シルクやカイコを用いた医療・繊維ビジネスを考えている人が、カイコの研究者・専門家からうまくアドバイスを受けられるような体制を作ることも大事になってきます。
多くの人を巻き込みながら、研究者や技術者がこの地にどんどん集まってくれば、実用化の可能性はさらに広がり、本プロジェクトは益々発展していくと思います。

やまがシルク・セミナー2016にて、学生たちから多く寄せられた「カイコの有用性」についての質問に、ひとつひとつ丁寧に答える太田氏。